考古学にとっての土器
土器は、考古学者に多くのことを教えてくれます。
粘土を素材とする土器は、造形の自由度が高く、時代や地域、窯元、さらには製作者個人にいたるまで、個性が生まれやすい人工物です。考古学者は、この差異を読み解き、遺跡の年代を推定したり、同じ土器を使用している地域の特徴を把握したり、製作工房の特定に役立てています。また人類が土器を使用するようになってからは、土器は日常生活のさまざまな側面で使用され、饗宴や儀礼などの非日常の場面でも利用されました。たとえば、穀物や液体を貯蔵する容器として、炊飯や煮物の調理道具として、ごはんやおかずを盛りつける食器として、神撰をささげる儀式用の器として、酒や調味料をつくる醸造具として、時には人を埋葬する棺としてなどです。土器が必要不可欠であった生活は金属でつくられた道具や電化製品が普及する昔のことかもしれませんが、いまでもわたしたちの身の回りでは焼き物が使われています。
一方で、土器は物理的な衝撃に弱いために日常的にこわれやすく、祭祀などでわざと破壊されることもよくありました。昭和・平成の日本では、普段使っているお茶碗がふとした拍子にこわれてしまって、泣く泣く捨ててしまう経験をした人も多いでしょう。発掘調査では、過去の人間によって廃棄や埋納されたモノを掘り起こします。ですので、よくこわれることの多い土器は、考古学者が発掘調査で出会うことの多い考古資料です。
バラバラにこわれて、破片となって出土することの多い土器は、欠片となったピースをパズルのようにつなぎあわせることから分析がはじめます。博物館では、土器が破片の状態、完全形に復元されたもの、失われたピースの部分を石膏等で埋めて、色を塗ったものなど、さまざまな状態で展示されていますが、発掘調査で地面から姿をあらわしたときはほとんどが破片の状態です。土まみれの土器片をよく水洗いし、出土した地層や場所、出土日(住所と生年月日ですね)を土器片の目立たない場所に小さく記して、1片1片を接合していきます。博物館で展示してある土器をよく見ると、時々、小さな文字がみえるかもしれませんので、注意してみてください。
土器片は、接合や復元作業を通じて、本来の形状やサイズがわかっていきます。くびが細長く、胴部が大きい土器は貯蔵用、底が丸く、口がひらいているものは調理用、ちょうど片手におさまるサイズの半円形のものは食器などといったように、パズルが出来上がっていくと、土器の形状がしだいに判明し、形の形状から貯蔵・調理・食膳・供献など、その機能や用途を推定していきます。日本考古学では、機能や用途によって分類された単位を「形式」と呼び、そのなかで口縁部の形状などによって細分されたものを「型式」と呼び分けています。用途、器形、サイズ、装飾や文様の特徴によって、土器は名づけられ、分類されてきました。そして、土器に通じる特徴をうまくまとめ、時代背景や文化の特質を読み取っていくことが、考古学的な焼き物=土器の分析法といえます。
土器は考古学者にとって時計のようなものです。遺跡の調査では、地面や地層そのものに年代が記してあることは少ないので、現地ですぐに年代をはかることは難しいですが、土器片があれば、どの時代、どの時期であるのかといったことがわかります。考古資料の相対的な先後関係を把握し、時間軸に沿って配列することを編年と呼びます。土器編年研究が進み、編年図が充実すると、たとえ少数破片の土器であっても遺跡や遺構のある程度の時期がわかります。
「年代を測るものさし」として考古学にとって欠かせない資料である土器は、いまや時期決定のための示準資料として重要なだけではありません。最近の研究では、土器に付着した穀物や昆虫から当時の生活を復元できるようになってきています。土器にはいっていた内容物についてはのこらないことが多く、わからないことが多いのですが、土器の容量を計測することによって機能の変化を読み取ることもできますし、食器の数を数えて竪穴住居に暮らした人数を推し量ることも可能です。土器の外面に付着したススや内面にのこされたコゲの観察を通じて、調理の方法や内容も議論できます。日本では十二分になされていませんが、土器の素材を理化学的に分析することで産地がわかることもあります。
日本考古学では、毎年約8000件行われる発掘調査で出土した膨大な土器片の分析に基礎をおいた帰納論的アプローチによって、土器研究を進めてきました。このウェブサイトでは主に古墳時代土器について、日本考古学でわかっていること、わかってきたことを紹介します。