日本古代 土器の基礎知識

古墳時代土師器の特質

 古墳時代土器の本質は地域性がみられる一方で、日本列島広域に共通の土器群が展開するといった全体性が存在します。そして、その特徴は第一に儀礼用土器が広域展開する斉一性、第二に政治変動と連関しておこる更新(刷新)性、最期に斉一性と更新性によって中心—周辺関係が維持されるという3点にまとめることができます。

 まず古墳時代の土器にはそれまでに認められなかった広範囲におけるスタイルの斉一性が表れます。古墳時代前期には古墳上の葬送儀礼をはじめとして用いられた小型精製土器が、東北から南九州まで広がりました。重要な点はこの小型精製土師器のスタイルが政権所在地であった大和盆地で生まれ各地に波及していること、そして、その波及する範囲がほぼ前方後円墳の分布域に重なっていることです。

 土師器の直口壺という器種に着目し、古墳時代中期中葉を例に挙げると、鹿児島県南摺ヶ浜遺跡から山形県的場遺跡にいたるまで日本列島広域に共有されるという特徴をもちます。そして、各地で出土した土師器直口壺にはその地域の胎土が用いられ、器形や製作技術に微差が認められることから地域生産が考えられます。さらに、集落遺跡のみならず、古墳墳丘や横穴式石室への土器供献、さらには導水施設など祭祀遺跡でも用いられるという日常/非日常の様々な場面において用いられました。

 古墳時代土器の第2の特徴は古墳時代の前期、中期、後期という節目で、土器のスタイルが大きく刷新されることです。

 土師器の小型精製土器群、須恵器?や器台といった儀礼につかわれたと考えられる土器は、器種構成や器形、文様構成や装飾などの更新に富み、政治変動期と呼応する刷新がみとめられます。 一方で、 土師器直口壺のように例外的な土師器も存在します。この土器は、古墳出現前後から古墳時代終末期にいたるまで、古墳時代土器の中で連綿と製作され続けた土器です(通時期的生産)。古墳時代土器は、同じ時代のなかで焼成技術、器種構成、機能や意匠の変化が著しいが、土師器の直口壺は通時期的に製作されており、異質というべき存在といえます。

 斉一性あるいは広域共有土器の存在、そして更新性にみえるように、古墳時代の土器には常に発信源となった中心地域が存在します。

 今後は、世界各地の国家形成期における共通の土器様式の拡散現象、範囲、更新性、専業度合いのあり方を古墳時代土器と比較する視点が必要となるでしょう。そのなかで、古墳時代土器の特質がより明らかになると思われますし、国家形成期において土器にみえる通則的な現象に関する議論も深まると考えています。